介護のダブルワーク、労働時間の通算と割増賃金を勤怠データで正しく管理
「うちの夜勤専従の方、どうやら別の施設でも働いているらしい」——介護事業所では、そう珍しい話ではありません。人手不足のなかで、ダブルワークを認めること自体は現実的な選択です。
ただ、ここに一つ見落とされがちな論点があります。副業・兼業をしている職員の労働時間は、別々の会社で働いていても法律上は合算(通算)される、というルールです。これを知らないまま雇い入れると、割増賃金の未払いや健康管理上の責任が、事業所側に残ってしまうことがあります。
今回は、介護事業所が押さえておきたい副業・兼業の勤怠実務を、制度の根拠と現場での回し方の両面から整理します。
介護現場のダブルワークは「本人の自由」では終わらない
介護業界は、そもそも掛け持ちが起きやすい構造をしています。夜勤専従、登録ヘルパー、週2〜3日の短時間パート——いずれも他の仕事と組み合わせやすい働き方です。日中は別の職場で働き、夕方から遅出で入る職員、逆に本業の休みの日だけ夜勤に入る職員。心当たりのある管理者の方も多いはずです。
ここで根拠になるのが労働基準法38条1項です。「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定められており、行政解釈では事業主が異なる場合(=別会社での副業)も含まれると扱われています。つまり、A事業所で6時間、B事業所で3時間働けば、その日の労働時間は9時間。1日8時間という法定労働時間を1時間超えている状態になります。
ただし、通算の対象になるのは「労働者として雇用されている場合」に限られます。業務委託やフリーランスとしての活動、自営業は労働時間の通算対象外です。この線引きは、厚生労働省の副業・兼業の促進に関するガイドライン(平成30年1月策定/令和2年9月・令和4年7月改定)に整理されています。
割増賃金は「誰が」払うのか——通算の順序がカギ
通算されると聞いて、経営者の方が最初に気にされるのが「では、うちが残業代を払うのか」という点です。ここには順序のルールがあります。
まず、所定労働時間(契約であらかじめ決めた勤務時間)を、労働契約を締結した順に通算します。その上で、所定外労働時間(残業)を、実際に労働が行われた順に通算していきます。そして、通算した結果として法定労働時間を超える部分について、その時間を実際に労働させた使用者が割増賃金を支払う、という考え方です。
実務上は、後から労働契約を結んだ側——つまり副業として受け入れた事業所——が割増賃金を負担するケースが多くなります。「うちはパートで週2日しか入っていないから残業代は関係ない」とは言い切れない、ということです。
では、他社での勤務時間をどうやって把握するのか。ガイドラインでは、労働者からの申告等によって把握する方法が示されています。申告がなかった時間まで事業所が責めを負うわけではありませんが、裏を返せば「申告してもらう仕組み」を作っておくことが事業所側の防御になります。
さらに、日々他社の労働時間を追いかけるのは現実的ではないため、簡便な方法として「管理モデル」も用意されています。あらかじめ各社の労働時間の上限を設定しておき、先に契約した事業所は自社の法定外労働時間分、後から契約した事業所は自社での労働時間分について、それぞれ割増賃金を支払う——という取り決め方です。時間外労働の上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)の範囲に収まるよう上限を設計することが前提になります。詳しくは厚生労働省のわかりやすい解説(2025年3月版)にまとまっています。
見直しの議論は進行中。ただし当面は現行ルールで
「他社の労働時間を日々把握するのは事実上不可能」という実務の声を受けて、制度そのものの見直し議論も進んでいます。2025年1月8日に公表された厚生労働省の労働基準関係法制研究会報告書では、健康確保の観点からの労働時間の通算は維持しつつ、割増賃金の算定における通算のあり方を見直す方向が検討課題として示されました。
ただし、これはあくまで検討段階の話です。改正法が成立・施行されるまでは、現行の通算ルールがそのまま適用されます。「もうすぐ変わるらしいから」と対応を先送りするのは、実地指導や労基署の調査を考えるとリスクが残ります。今の運用は今のルールで固めておく、というのが安全な構えです。
事業所がまずやるべきは「自社の勤怠実績を正確にすること」
副業・兼業の労務管理というと難しく聞こえますが、事業所がコントロールできる範囲は実はシンプルです。
1つ目は、申告のルールを作ること。 就業規則や雇用契約書に副業・兼業の届出義務を明記し、他社での所定労働時間・勤務日を書面で申告してもらう。入職時だけでなく、変更時にも更新してもらう運用にしておきます。
2つ目は、自社の労働時間を1分単位で正確に持っておくこと。 ここが実は一番の土台です。通算計算は「自社の実績+他社の申告」で成り立ちます。自社側の数字が手書きのタイムカードや自己申告で曖昧なままだと、そもそも計算が組み立てられません。
絆太郎(ばんたろう)では、職員がLINEで出退勤を打刻できるため、実際の勤務実績がそのままデータとして残ります。コックピット画面では出勤状況や打刻エラーの検知、承認待ちの申請が一覧で確認でき、「打刻漏れに月末まで気づかない」という状態を防げます。
3つ目は、同一法人内の掛け持ちを見落とさないこと。 意外な盲点がここです。他社との副業は申告が必要ですが、同じ法人内でA事業所とB事業所を兼務している職員の労働時間は、当然に通算されます。しかも通算する責任は完全に自法人にあります。事業所ごとにバラバラの台帳で勤怠を管理していると、合算して初めて時間外が発生していた、というケースが起こり得ます。
絆太郎は複数事業所を1画面で統括できるため、法人全体での勤務実績をまとめて確認できます。あわせて、常勤換算と勤務形態一覧表の自動集計にも対応しているので、兼務者の按分をふくめた人員配置の状況も同じデータから確認できます。実地指導で勤務形態一覧表と打刻実績の整合を問われたときにも、同じ数字で説明できるのは強みです。
また、掛け持ちで働く職員は、どうしても連続勤務や夜勤の負担が偏りがちです。絆太郎のAIシフト自動生成は、配置基準や希望休に加えて夜勤・連続勤務の制限を考慮してシフトを組むため、健康確保の面でも管理者の判断を支えます。
まとめ
ダブルワークを認めること自体は、人材確保の観点でむしろ前向きな選択です。問題は、通算ルールを知らないまま「本人の自由だから」で片づけてしまうこと。
- 労働時間は、別会社であっても通算される(労基法38条1項)
- 所定→所定外の順に通算し、法定超過分を労働させた使用者が割増賃金を負担する
- 他社の時間は申告で把握。管理モデルという簡便な方法もある
- 見直し議論はあるが、施行までは現行ルールで運用する
- 同一法人内の兼務は、自法人の責任で必ず通算する
そして、そのすべての土台になるのが「自社の勤怠実績が正確であること」です。ここが固まっていれば、副業の申告が加わっても計算は組み立てられます。
絆太郎は、介護現場を実際に運営している会社が、自分たちの労務課題を解決するために作ったシステムです。基盤にはGoogle Cloud(Firebase)を採用し、国内サーバーで運用しています。掛け持ち職員の勤怠が見えにくい、事業所ごとに台帳が分かれている——そうした状態に心当たりがあれば、一度データの持ち方から見直してみてはいかがでしょうか。
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